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診療科トピックス

​​​​JARMeCでは365日、各科ごとに様々な症例に向きあっています。
ここでは各科ごとの症例や取り組みの一例を紹介します。

​血液内科

Hematology Department

犬における免疫介在性好中球減少症(IMNP)の治療

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図1 末梢血液(x200):著しい好中球減少症が認められる。

免疫学的破壊による好中球減少症

 1歳10ヵ月齢で避妊雌のフレンチ・ブルドッグが活動性の低下と発熱のため、かかりつけ動物病院を受診。白血球減 少症(2,700 /μL)とCRPの上昇(8.3 mg /dL)が認められた ため、抗菌薬を投与したところ、CRPは低下したものの、白血球数は1,900 /μLと減少したままでした。    東京病院・血液内科での初診時には一般状態は回復傾向にありましたが、健常時の状況にまでは戻っていませんでした。血液検査において白血球数は1,600 /μL (分葉核好中球 220 /μL)と、依然として好中球減少症が続いていました(図1)。CRPも低値であったことから、本例における好中球減少症は、感染・炎症によって起きる好中球の消費によるものではないと判断されました。  

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図2 骨髄穿刺細胞診(x1000):未熟な骨髄球系細胞から成熟した桿状核・分葉核好中球までの分化増殖が観察される。

免疫学的破壊による好中球減少症

 骨髄検査では、骨髄球系細胞が骨髄有核細胞の80%以上を占めており、その分化成熟に異常は認められませんでした(図 2)。そのため、本例の好中球減少症は骨髄における好中球産生低下によるものではないことが示唆されました。    以上の所見から、本例における好中球減少症は免疫学的破壊によるものと考え、免疫抑制量のプレドニゾロンとシクロスポリンの併用療法を開始。 好中球は14日目までは基準範囲未満でしたが、17日目には3,000 /μLを超え、19日目以降は10,000 /μL以上の値が続きました(図3)。

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図3 プレドニゾロンとシクロスポリンの併用療法時における好中球数の変化

若齢での発症が多く、好中球減少症が顕著

 好中球減少症があり、その原因が病歴や各種検査によって同定されず、免疫抑制療法によって好中球数が基準範囲まで回復する場合、免疫介在性好中球減少症 ( IMNP: Immune-mediated neutropenia )と診断されます。比較的 若齢の犬で発生することが多く、4 歳未満で発症リスクが高いことが示されています。また、他の要因による好中球減少 症よりも顕著な好中球減少症が認められることが多く、IMNPの犬35頭のうち22頭で 1,000 /μL 未満の好中球減少症が認められています。 犬において好中球減少症が認められた場合、敗血症や骨髄 疾患について十分な注意をする必要がありますが、これらを鑑別した上で IMNPを考慮します。IMNPでは、年齢や好 中球数に特徴があり、ほとんどの場合3週間以内に免疫抑制療法に反応して好中球数の回復が認められています。